<小説の最初のページ>
下 町 ロ ケ ッ ト著 者 : 池 戸 田 潤
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いよいよだな。ああ、なんだかドキドキしてきたよ」
緊迫感が漲(みなぎ)る発射管制塔内で、同僚の三上孝志が上擦(うわず)った声を出した。
佃航平(つくだこうへい)は、モニタ画面に表示されている射点の様子を一瞥(いちべつ)し
画面右端に出ている風速表示を確認した。
相変わらず秒速十五メートルの強い風が吹いている。
「打ち上げ8分前になりました。カウントダウンを開始します。これより、自動カウントダウン
シークエンスに移行します」
種子島宇宙センターの構内外に流れるスピーカーシステムからアナウンスされると、
「四百八十、四百七十九、四百七十八・・・」
というカウントダウンがはじまった。
管制塔内の最後列には宇宙科学開発機構主任の本木健介が陣取っている。
本木は大宇宙航空研究所教授も兼務しているロケットサイエンティストで、今回の実験衛生打ち上げ
のミッションマネージャーだ。
誰もが固唾(かたず)を呑んで、モニタをみつめていた。
射点で天空を指している実験ロケットは、あまりにも整然とし過ぎていて、怪獣映画に出てくる
セットのように見える。
それを眺めている佃の胸は、緊張でいまにも張り裂けんばかりだった。
カウントダウンが続いている。
四百八、四百七・・・。
「射場系準備完了」。
自動カウントダウンに本木の声がかぶった。
「一番液体酸素系準備完了・・・二番液体酸素系準備完了」
「ついに試されるときだな、佃」
映し出された射点の様子を食い入るような眼差しを向けながら、三上は興奮を抑えきれない様子で